九六式軽機関銃ができるまで①

この項は新企画です。KTWの製造過程を皆さんに公開します。ヤスリ1本からスタートしたKTWの製品作りですが、20年以上経った今でも似たようなものです。これを見てメーカーになろうという方が1人でも現れれば幸いです。

旧日本軍の軽機関銃の銃身は、螺旋条の放熱リブがあり、テーパーもあってけっこう難しいため、まずこいつからかたづけましょう。木村工場長が旋盤の最終作業でKTW伝統のヤスリ作業をしています。笑っているようですが、実はかなりひきつっています。これからガンバッテもらいます。

薬室からFサイトまでの銃身部で(マズル部は別パーツ)、これが元型となって硬質ウレタン樹脂製の量産品になります。芯には外径17mmの真鍮パイプが入り、その中に外径8.5mm・内径6.05mmの真鍮インナーバレルが入ります。
2008年・7月・14日



今回は木製ストックを先に造ります。三八式、九九式の時は実銃のストックがあったのでこれを元型にして簡単に量産できましたが、今度ばかりは違います。現存する九六式軽機は国宝級で、実物を利用するなどもってのほか。データを基にクルミ材をフライス盤で削ってあとはヤスリがけ、困ったときのパテ盛りと、あの手この手で正確に再現しました。スリングスイベルは後回しです。

木ストックの製作は関連パーツと同時進行します。床尾板とレシーバー側の受け部で、量産ではこれを元型にして南部鉄器になります。黒い色になっているのは塗装です。基はクルミ材にパテ盛り修正したものです。フライス盤で大まかな加工をした後、ヤスリ数本で完成です(と言ってもやる人は大変)。南部鉄器は量産品に収縮があるのでその分元型は大きく造ります。

鉄器の収縮分を考慮して、量産での組みあがりを想像して下さい。なお、グリップのチェッカリングは、量産時には伝統芸のスジ彫り職人さんのお仕事で、ウィンチェスターM70スーパーグレードで、すでにお世話になっています。南部さんの造った九六式軽機ですが、南部地方(岩手県)にいるKTWが南部鉄器を使用することに何かの因縁のような物を感じます。                 

7月16日



キャリングハンドル。この形は、こけし造りと同じです。これをコピーして量産します。試作は塩ビ材を塗装したものですが、量産では他の木スト部と同様、鬼グルミになります。

ハンドルの基部は鉄です。九六式は金属パーツが多く、KTWで最大重量のL96A1の5.8㌔を超しそうなため、ここは頑丈に造ります。ただ、5㌔を超えない製品にしようと思っています。

ハンドル基部が嵌まる部分の銃身後端部です。右側の角部がレシーバーに入ります。アルミ材を旋盤とフライス盤で加工して、切った貼ったで合成し、鋳物での量産の元型になります。

組み上がり。ハンドルが前傾しているのが特徴ですが、真上から見たとき、さらにハンドルが左に傾いています。持って走るときの絶妙な工夫です。

7月22日



今、設計図を描いています。普通のメーカーはこれを先にするのが常識ですが、KTWではよくあることです。スプリングフィールドM1903A3は図面なしでイチかバチか、いきなり本番決行しました。リー・エンフィールドNo.4のときもそれに近い状態でした。それはともかく、九六式は再現するのに困難な箇所がいくつかあります。これを解決する方法を考えながら実際に試作品を造ってみて、イケるとなったとき、漫画状態だった最初の図面を具体化していきます。なお、KTWは図面はすべて手描きです。銃は原寸で手で描くのが一番よいと思っています。余談ですが、この大きいサイズの製図版はかつてのメーカー、LSの設計部でAK47を描いたもので、LSなきあといろいろ渡り歩き、ぜひ使って欲しいと言う人を介して最終的にKTWに来て、モシン・ナガンを描いたというロシアつながりの因縁ものですが、まあ、九六式とは関係ないことですね。7月29日



内部メカの実験です。図面に近いレイアウトで発射機構を組み立て、命中精度、初速のデータをとりました。基本アイデアを提供していただいたガンジニアのメンバーの再集合です。最良のインナーバレル長、パッキンの気密度アップ方法、適正バッテリーの選択などなど、ほとんど決定しました。その結果、パワーは0.7ジュ-ル、命中精度はスナイパーライフル・クラスとなりました。    8月3日



二脚です。プラ板と塩ビ管を切った貼ったでフルスクラッチを造り、これをマスターにして型をおこし鋳物(鉄)を量産(?)します。金型は使用しません。砂型です。ただこの方法は、後加工が大変で、仕上げるのにとっても手間がかかります。なお、九六式の二脚は前期と後期の2種類あります。脚基部板に肉抜き穴が2つあるのが前期、穴1つが後期です。脚部の強度を増すためのモデルチェンジといわれていますが、省力化も多分にあったと思います。KTWは造りやすそうな後期タイプを選びました。 8月7日



トリガー部。パーツはこれだけです。シンプル・イズ・ベストがKTWの標語です。安全の位置でトリガーをロックする機構です。「火」と「安」の刻印は最後に彫りますが、その方法は検討中です。

トリガーがマイクロスイッチ(市販品)を押し、通電してフルオート発射となります。実に簡単です。ただ、これを収めるレシーバーの製作には苦労しています。  8月14日



フロントサイト(マスター)と銃身(アウターバレル)。Fサイトはいつものように塩ビ材を切った貼ったしたもので、これがマスターとなって鉄製鋳物で量産されます。銃身はFサイトを境に前後部に分かれますが、当初、プラのキャスト製で考えていました。これが、コストの面で削った方が安いとわかり、あっさり予定変更です。アルミ丸棒の全削り出しでいきます。サンドブラストでつやを消し、黒アルマイトで仕上げます。考えてみれば三八式の銃身もこれと同じ方法でやっていました。   8月20日



マガジンの製作は、九六式教本(九六式軽機関銃必携)のマガジン図を原寸大に拡大コピーして木板に貼り(左)、卓上ノコ盤で切り抜き、8mmチューブと8mmBB弾でリブ部に埋め込み、残して凸部、取って凹部となり(中)、あとは木板とプラ板とパテで造形し、塗装して完成です(右)。

これをマスターにしてプラキャストを成型します。それから2つ割にして細かい加工に入ります。写真は2つ割にする前、口金の部分の給弾口との取り合いを試しに加工したものです。内部の構造はこれから考えます。巻き上げ式の1000連は止め、シングルカアラムの100連にする予定です。

本来はこういうふうな口金部の構造にしたいのですが電動メカ部に当たって無理でした。キャストは多めに造ったので、余った分をこの仕様で実銃用のダミーマガジンとして造ってみます。10個ほどになると思いますが、欲しい方はお問い合わせフォームでお尋ね下さい。
8月23日



尾筒底。塩ビ材製で、型用マスターです。量産ではメタルキャスト(ホワイトメタル)になります。ところで、ここまでくるとヤスリ1本でというわけにはいきません。旋盤とフライス盤にたよるしかありません。九六式は曲線と直線が複雑に交差したパーツの集合体で、見れば見るほど当時のみごとな加工技術と高い芸術性を感じます。

塩ビで造った「ガス筒」試作(マスター)。銃身真下の部分です。量産では前部がスチール管、後部はアルミ鋳物のつなぎ構造になります。前方の穴はガス抜き、中央のいくつかの突起はナス環をかけるスイベル基部(右側面)、他(下と左側面)は三脚に搭載する際、緩衝托架にはめ込む部分です(と、教本に書いてありました)。
8月28日